蒼夏の螺旋 “可愛い煩悶?”

 


この冬もなかなかに波乱含みのまま、
それでもその終焉となるのだろ、弥生三月まで辿り着いて。
関西地方の、特に神戸や淡路では、
ひな祭りの頃合いに漁が解禁となる“イカナゴ”という幼魚を、
ザラメと醤油、土しょうがなどで“クギ煮”にすることで、
やっとの春の到来を実感すると、

 『メル友の kinakoさんがゆってた。』

他の土地へ独立した息子さんなんかへ郵送出来るようにって、
配送票つきのタッパウェアを郵便局で売ってたりすんだってと。
季節の話題もちゃんと把握しておいで…というか、
“どーだ、凄いこと知ってるだろー”と自慢げになるところが、

  ―― いつまでも初々しいったらありゃしないvv

な〜んて、vv付きで思い浮かべてしまう、
小さくて腕白な愛妻さんが待つ自宅へと、
某有名商社 企画部の出世頭様が到着したのは ほぼ定時。
今日はちょっぴり寒気が戻って来たらしく、
JRから降り立ったそのまま見上げた空には、
凍えているのか、一番星が ふるると瞬いていたのが見受けられ。
多少は陽も長くなったとはいえ、
さすがに七時を回る頃ともなると、
辺りもすっかりと暗い中。
吐息を白く曇らせながら、足早になって戻ったマンションフラットでは、

 『おっかえりぃ!』

満面の笑みを乗っけた愛しいお顔が、元気も乗っけた勢いよく、
勢い余って玄関の三和土へ踏み出しながら、
寒空を帰って来たご亭主に、飛びついての歓待ぶりでお出迎え。
さぁさ何にする、風呂かそれともご飯か?
ちょうど今、
風呂ふき大根のそぼろあんかけが仕上がったとこだぞ、
一口トンカツもジュウジュウ言ってるぞ。
同時にフィニッシュしたんだ、
偉いだろ…じゃなかった凄いだろーと。

 こうまで畳み掛けられちゃあね。

 「じゃあ、ご飯を先に頂こうかな?」
 「やたっ!」

俺もそう来るだろと思ったんだvv…なんて、
どこまで本気か、いやいやどこまでも真剣なんだろう、
それはそれは可愛らしい無邪気さを振り撒きながら。
預かったブリーフケースを“人質”に、
キッチンまでをワクワクと先導する、
キュートな奥方だったりしたのであります。



      ◇◇


熱っつあつのメニューをまずはビールで、続いてはご飯で味わってから。
食休みのあと、風呂で温まってのリビングへ戻れば、

 「熱燗とウィスキーのホット割りと どっちにすんだ?」

なんて。
寝る前のちょっと一杯という
寝酒の流れもちゃんと把握済みの奥方だったが、

 「熱燗で…って。何を熱心に見てるんだ?」
 「ん〜? うん。」

いや、もう用は済んだんだけどもさ、と。
テーブルに開いていたのが、
時たまおもしろい商品が掲載されてるんでと、
読み物として買っている某通販雑誌で。
湯気が立ってる頭をごしごしと拭いつつ、
ひょいっと覗けば、

 「5月号…?」
 「うん。母の日って特集号だったら探しやすいかなって思ってさ。」
 「………ふ〜ん。」

そこまでのフレーズで、
ピンと来た自分に苦笑をしたゾロだったのは言うまでもない。
そういえば、あの金髪の料理上手な子煩悩男は、
今時分が誕生日ではなかったか。
そうかそれでと、納得しつつ、

 「間に合うのか?」

さりげなく聞くと、

 「うん。贈り物自体はサ、
  もうとっくに仕上げて、発送するだけにしてあったから。」

幾つも持ってるんだろうけど、
不燃素材で作ったキルトミトンと
ロングVer.のギャルソンエプロンだぞと。
お手製を頑張ったらしい胸の張りようを見せてから、

 「あと、
  ちょっとした小物とかカードとかをつけようと思って、
  そこで迷っちゃってさ。」

というか、そもそもの贈り物にしたって、
エプロンにしたのも迷いにも迷ったあげくで、しかも

 「確か、もう何枚も作ってるんだもんな これが。」

カタログも兼ねている月刊誌をパタリと閉じて、
胸を張った気勢はどこへやら、ふにゃいと溜息ついている。
もしかして微妙に不本意なところがあった模様であり、

 「俺だってサ、
  母ちゃんは早くにいなかったけど祖母ちゃんがいたから、
  母の日に何を贈ったらいいのかなとか、
  考えたことあったはずなのにサ。」

そういやぁって思い出すのは、
何がほしいって訊いても何でもいいよってしか言わなくて、
肩たたき券とかでも、
そりゃあ喜んでくれた祖母ちゃんのことばっかでさ。

 「ましてやサンジは、料理がプロ並みなんだもの。」

そんな人相手にケーキやお菓子を作ってもさ…と、
最近やっと、何とかあれこれこなせるようになった、
お菓子作りを思い出しもしたらしいことを伺わせた小さな奥方。
でもでもきっと敵いっこないしーと、
テーブルの上へずるり突っ伏してしまうところが、
何とも幼い拗ねっぷり。

 “……ふ〜ん。”

今でも時々、いやいや、実の父や兄以上に結構頻繁に、
ルフィの口から飛び出す名前であり存在である、
あのすかした金髪男に関しては。
当初こそ随分と嫉妬もしたが、
このごろではこちらもすっかりと“実家の母”扱いであり。
そんなせいだろうか、
何をすれば喜んでもらえるんだろと、
そんなことで煩悶しているルフィであれ、
むっと来るよりも先に、
やはり苦笑が絶えなかったりする婿殿だったりするらしい。
だってさ、あのね?

 「気持ちは判らんではないが。」

そちらさんもパジャマに着替えていたルフィの、
ボーダー柄をまとった腕の下敷きになってた、
雑誌をちょんちょんとつついてやって、

 「何でまた“母の日”を参考にしてんだ?」
 「え?」
 「相手は一応、俺と大差ない年頃の男だぞ?」
 「………え?」
 「まあ、実質は何十年も年とってる爺様なのかもしれないがな。」


  「………………あ。」


  おあとがよろしいようで。





  〜どさくさ・どっとはらい〜  11.03.02.


  *今更なオチですいません。
   でもでも、
   例えば 母の日の贈り物とかお母さんの誕生日とかって悩みませんか?
   料理も裁縫も腕前は自分より上だもの、
   学生さんだったら、財力だって相手の方が上だものね。
   一体何を贈れば喜んでくれるのかな、
   訊いても何でもいいとか勉強頑張ってとか言われるしさ…って。
   自分がその立場や年代になると、
   そう言う側の気持ちも判るんですが…ねぇ?
(苦笑)

  とりあえず、サンジさん、

      Happy birthday!  to you!


   ちなみに、奥さんがイラっと来るのが
   旦那にご飯のリクエストを聞いたときに
   “何でもいい”と返されることだそうで。
   若いころ、デートのときに何食べようかと訊かれたカノ女が、
   何でもいいと言いつつ、
   何かと難癖つけたのへの仕返し……じゃあないにしても。
   せめて考えるポーズくらいは取ってあげてください。
   こっちは結構考えてるんですのに、それじゃあね。
   しまいにゃコンビニのお弁当にされちゃうぞ?

*ご感想はこちらvv**めるふぉvv

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